鬼祓う巫女
「な、ぜだ、」
紅蓮は三者に押さえられた桃太郎を、少し離れた場所から見つめる。桃太郎、高麗、新羅、百済を捉える金色の瞳は、驚きを隠せずにいた。
桃太郎は霞む瞳で、月夜を見上げる。己の肉に突き刺さる鉛が、力を吸いとっていく。熱く騒いでいた血が静まり死へと近付いていく感覚を覚えた。
「桃太郎、お前は鬼へ心を預け過ぎた」
視界にあるのは、美しい才色の緑色の髪。桃太郎は瞬時にそれが百済のものだと、後ろから聞こえた声は高麗のものだと悟った。同時に感じた違和感。見えずとも、右手に握られていたはずの退魔の刀が消えていることに気付く。
桃太郎はゆっくりと視線を横に移すと、桃太郎の刀を弾いた新羅を目に移した。
「初めてだな、お前が俺の刀を弾いたのは」
稽古をつけている時は一度も、己から刀を落とすことが出来なかった新羅。新羅が産まれて家に捨てられ、六を数える頃から見てきたが、幼さは残るものの新羅は今までで一番凛々しい表情を見せている。
「今の兄者になら僕は負けない」
それだけ告げると、涙は見せまいと新羅は桃太郎に背を向けた。地面に落ちた猿の面を拾うと、面で泣き顔を隠す。齢十四の、狭い肩は震えていた。
「ごほっ」
高麗の短剣が引き抜かれると、桃太郎の口から更に血が吐き出される。
「高、麗っ」
「……お前が復讐をなしえ鬼でなるであろう事を、俺は知りながら黙っていた。こうする他に、お前を止める術を知らなかったのだ」
高麗は面を外すと、桃太郎へ微笑んで見せた。悲しげなその笑みは、ただひたすらに友を想う思慕のみが現れる。
「すまなかった、桃太郎」
高麗は跪くと、深く頭を下げた。