鬼祓う巫女
時は流れ数年後――
戦いの後大名である父の元に戻った新羅が世を治め、戦乱の時代が幕を閉じ平穏を取り戻した頃。
人里離れた山の奥で、ひっそりと暮らす者達がいた。
「紅蓮、ご飯が出来ました。皆さんも呼んできますね」
「……待て、姫路」
幾つもの山を巡り、小さくも立派な館を建てた紅蓮と姫路。そこには戦いで生き残った鬼達と姫路とがひっそりと暮らしていた。最初は巫女だった姫路に嫌悪を抱く鬼達だったが、次第に打ち解け、今では共に食事も取るようになった。
他の鬼の元へ行こうとする姫路を、紅蓮が後ろからそっと抱き締める。
「行くな、姫路」
「……まだ、寝惚けてるのですか」
「……あぁ」
己の心臓の高鳴りを隠そうと、姫路はわざと紅蓮に問い掛ける。
紅蓮の一つ一つの行動は、心臓に悪い。数年間も一緒にいるというのに慣れるにはまだ時間がかかりそうだった。
紅蓮もそれを分かっていて姫路をからかうものだから、余計に落ち着く暇がない。現に今も、内心狼狽えている己をからかっている。
「先日、桃太郎から文が届いた。……使いの女が、此処を見つけたのだろう。文を持ってきた」
「桃太郎殿から……?」
使いの女、とは百済のことだろう。あの戦いから会うことがなかった桃太郎。行き先も告げずにいたのだから、この山を見つけ出すのは苦労したはずだ。
「お前宛てに、文と共に、この刀が」
紅蓮は片手に持っていた刀を取り出すと、姫路の前へと持っていく。
「これは……高麗殿の刀……?」
僅かに見覚えがある。高麗が桃太郎を刺した刀。手にすると、懐かしい力を感じとり姫路は驚きを隠せない。
刀には、巫女の力が宿っていたのだ。
「受け取るか、どうするかはお前次第だ。これがあれば、お前は久世家へと戻ることが出来る」
紅蓮は姫路を離そうと、回した腕を弛める。しかし、姫路の手によって離れることは叶わなかった。
「私は鬼の頭領、紅蓮の花嫁。久世家へは帰りません。私は貴方のもの、です。巫女の力があったとしても、ずっと」