鬼祓う巫女
「……お前はずっと、俺のものだ。離しはしない」
紅蓮は回した腕に力を込めると、姫路をぎゅっと抱き締めた。
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「姫路殿に届けてきましたわ」
「遠くまで行かせてさせてすまなかったな、百済」
「若君の頼みですもの。それに私には羽根があります故。長くはかかりませんでしたわ」
紅蓮の屋敷のように立派、とはいかずとも大きな屋敷で、桃太郎庭で百済を迎えた。二人は縁側に向かうと、並んで腰掛ける。
「あれからずいぶんと、平穏になったな」
「えぇ」
邪気など含まない青い空と浮かぶ雲を見上げ、桃太郎は以前のことを思いだす。剣の腕を磨く為旅した日々。憎しみを負い我が身に強いた苦行は、苦しく、殺伐としたものだった。
苦行の日々も、己が鬼と化した鬼との戦いも、昨日のことに思えるのに、反対に遠い昔のことにさえ思える。
「不思議だな。最初から争いなどなかったように平穏がある」
素直な感想を口にすると、百済はクスリと笑った。
「若君、私の足に頭を預けてはくださいまし」
「……?あぁ」
百済の指示通り頭を百済に預けると、百済は鬼との戦いでそうしたように、桃太郎の頬を優しく撫でる。
「我等が若君は非常なお方ですわね。まだ鬼の気が残ってらっしゃるのかしら」
「縁起でもないことを言うな、鬼になるのは二度と御免だ」
桃太郎はげんなりと言うと、百済を見上げる。
「あの戦いを、無かったことになどしない。出来るはず、ないだろ」