鬼祓う巫女
「邪気が濃くなってきたな」
深い森の中を進みながら桃太郎は呟く。あれから数刻。行動を共にすることを決めた二人は鬼ヶ島へと続く獣道を辿っていた。
その道中に漂う鬼の邪気。息をするのさえ躊躇われる重々しい空気に、桃太郎は手で口を覆う。
姫巫女も着物で口を覆うが禍々しい邪気に身体がふらついた。巫女故に身体が邪気に合わず、普通の人間よりも負担が大きいのだ。
そんな姫巫女を桃太郎は一瞥くれるとふらつく姫巫女の腕を桃太郎が支える。
「平気か」
「……感謝します」
青白い顔のまま姫巫女は桃太郎の手をほどくと、邪気の源、悪しき島へと視線を移す。
紅蓮。紅蓮と会った時はこれほどの息苦しさを感じただろうか。否、感じたことなどなかった。
獲物を捕食しようとせん黄金の瞳。威圧感はあれどそれとは裏腹に、垣間見えた他者が理解出来ぬような深い感情。向けられた視線は姫巫女にとって決して嫌なものではなく。むしろ逆だったようにも思えた。今になっては知るよしもないが。あの瞳は何を思い何を秘めていたのだろうか。
姫巫女は熱くなる印を桃太郎に悟られないよう長い睫毛をそっと伏せる。
本当に隠したのは“印”かそれとももっと別のものか。胸に渦巻く感情が分からぬまま姫巫女は一人の鬼に思いを馳せた。
そして同刻、鬼もまた思いを馳せる。