鬼祓う巫女
鬼門をくぐり抜けると、やがて本島への入り口が見えてきた。
まだこの頃は人間は鬼に怯えくらすばかりで、鬼ヶ島から本島への行き来はさほど難しいものではなかった。
本島へ行く鬼の主な目的は作物、人、あらゆるものの奪取。
人より遥かに優れた五感と身体能力を持つ鬼に、人間は太刀打ちできなかったのだ。
入り口を抜けてまず目につくのは古くから退魔の神を祀る久世神社の鳥居。
陰陽道を操り鬼に対抗する唯一の神社である。
神社の辺りは結界が張られ、紅蓮ほどの鬼となれば本気になれば結界を壊すことなど容易であるだろうが、下級の鬼は迂闊に近寄ることはできない。
ここで騒ぎを起こすのは本意ではない、と紅蓮は早々に立ち去ろうときびすを返した。
刹那、人の気配を感じ警戒態勢へ入る。
――どこだ?
こちらに向かってくる気配を感じる――
全身の神経を集中させ、気配を辿る。葉の擦れる音、動物の足音。匂い。
久世神社に捕まった鬼が少なくないと鬼ヶ島でも問題視されていた。
しだいに足音は大きくなる。
「……誰だっ」
鋭い眼光を足音の先へ向けると、木の影から出てきたのは無力な1人の少女だった。
「あ……」
少女は紅蓮の刺すような視線にたじろぎ、身を震わせた。
これが鬼の次期頭領紅蓮と、姫巫女の出会いであった。