好きにならなきゃよかった
「心優」
まただ。そうやって、いつも私の心を掻き乱す。そんな甘い声で囁く貴方は狡い。掠れた声に敏感に反応する躰。低く掠れた声にゾクゾクしてしまう。煙草の馨りも、しなやかな指も、全てが――――――――――虚しい。
愛しいはずなのに、虚しい。
「心優」
「―…やぁ、…っ!」
「声聞かせろ」
そんな艶やかな声で呼ばないで。
そんな熱が迸る瞳で見ないで。
――……私の事なんか、好きじゃない癖に。
そう言えたら何れだけ楽か。
言えない。言えないよ。だって好きなんだもん。好きなの。好き。××さんが、好き。
私の上に跨がる××さんは凄く綺麗だ。まるで絵の中から飛び出した芸術品。逞しい躰。刺青が入った右腕。無造作な黒髪。全てが私を可笑しくさせる。