神さまに選ばれた理由(わけ)
翌日先生にメールを打った。
「私を吉野に連れて行って」と。世代の違う先生には古いギャグはまったく受けなかったが・・・・


帰ってからテレビでたまたま吉野を見たのだ。
心震える吉野というフレーズが気にいった。
それは桜の吉野というイメージよりも神々しい山。
かつて修験道たちが通った熊野へ続く道を秘めた峯の景色。
「行きたい」素直にそう思った
心が洗われる気がしたのだ。

私たちは京都で待ち合わせをし吉野を目指した。
家族には「友達とお花見に行ってくる」とだけ伝えた。
それ以上は家族も聞かなかった。
もちろん吉野にまで行ったとは思っていないだろう。
いつもの仲のいい友だちと都内の桜の名所にでも行ってランチでも
してくると思ってるらしい。
吉野に向かう電車の中でも先生はずっと喋っていた。
もともと話好きなんだろう
会社にもこんな人がいたことを思い出した
よく営業車に乗せてもらい営業の仕事に行った
その時もこんなふうに眠い私の表情などおかまいなく1人で
喋っていた。
今日もいつの間にか眠ってしまっていた。
先生の声が心地よかった。
告知の時と大違いだ。
こんな人は楽だ。会話に気をつかわなくて済む。
昼頃には吉野に着いた。
山は花見客でごったがえしていた。
でもその分花はまだあった。
あったというか中千本は今が盛りで山はこの世のものとは思えないくらい美しかった。
「ほら来てよかったじゃない?こんなにも歓迎してくれてるよ」
「うん!そうだね」と答えながら先生のお腹がなるのを聞いた
「まずなんか食べようか」私は言った。

吉野名物の柿の葉寿司と葛湯を飲んだあと、吉野をまわった。
私の足のことがあり、時間もなかったので初心者コースを歩いた。
はじめ先生の腕をつかんで歩いていた。
そのうち気が付いたら手を繋いでいた。
いつから手を繋いでいるのか気がつかなかった。
そして先生は私を“澪さん”と呼ぶようになった。
最初の方は恥ずかしそうで目を合わさなかったが
あとの方では昔からそう呼んでいたみたいに自然に呼んでいた。
先生とある人の影が重なった。

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