神さまに選ばれた理由(わけ)
最後の外来の日がやってきた。いつものように
3番の診察室の前のソファで待っていると右半身に重みを感じた。
それは冷房になれた身体にちょうどいい暖かさと重みを感じさせてくれた。
何だか懐かしい心地がした。
ふと見ると10才くらいの少年がうたたねをして腕にもたれかかって寝ていたのだ。
寝ている最中に思わず倒れかかったのだろう。母親は少し離れた赤ちゃんスペースで
妹を遊ばせている。この少年も松岡先生の担当だろうか・・・・いや患者は妹のほうだ。
それにしても少年はよく寝ている。サッカーかなにかの後でよほど疲れているのだろう。
かつて8才からサッカーを始めた長男のことを思い出した。
夏は真っ黒に日焼けをしてどっちが前だがわかんないねと良く笑った。
そして決まって試合の帰りは車の中で寝た。小さい身体にプレッシャーをいっぱい背負ってボールを追いかけていたのだろう
腕にもたれた半身はピクリともせず眠った。緊張から解き放たれ母親の柔らかさの中で安心しきって寝ていたのだろう。
ついこの前までそうだった長男ももう17才、私より大きく逞しくなった。12才の次男でさえ一端に反抗期で
そばによってくれない。
私ににもたれて眠る少年が愛しく思えた。できればこのままずっと目を覚まさないで欲しいと思った。
我が子の幼い頃の表情と重なってしまったのだ。
思わず見とれていると、「佐伯さん、顔がとろけそうだよ」
先生に呼ばれた。
相変わらず歩行はしにくくなっている。
会話もだ。
入院してた頃とは全然違う。まだ半年しかってないのに。
先生にはそう伝えた。
ぎこちなく診察は終わった。先生も言葉少なかった。
「これ、紹介状。僕の私的な意見もあるから少し多くなったけど・・・なにかあったら連絡くれるように」
「ありがとう きっと何もないわ。
「じゃこれで最後ね、先生。もうお会いすることもないわね。
ステキな先生になって。先生ならきっとなれるわ。これまでありがとう。
それと難治不良でも良くなるようあきらめないわ」。と言って手を差し出した。
「吉野ことも忘れないわ」と言いながら握手をした。。
「ああ。僕も」
「いつかどこかで私のこと見かけても声はかけないでね。それが優しさよ。
じゃ。」1人でしゃべって部屋をでた。
大人でいられただろうか。
涙は見せてない。
そうだリハビリのスタッフにもお礼を言わなければならなかった。
緊張がはずれた瞬間涙があふれた。
「ほーら、先生とのご縁は短かったじゃない」
新幹線に乗った。
ここで降りることはこれからないだろう。
そう思うと景色も愛おしくなる。
新幹線は夏の夕方の町を北に向かって走り出した。。
流れる景色を見ながらも浮かぶのはやはり先生の顔。
「おはようございます」と病室に入ってくるやんちゃな笑顔だった。
大人げないぞ。と思いながらその映像を消せない。
もう人を好きになる歳でもないし、何よりも私は不治の病を抱えた人間なのだ。
他に考えなければならないことはたくさんある。
今日1日だけ許して神様。明日には忘れるから。
その時、風が通り、急に背中が引き寄せられた。
「探したよ」
はあはあと言いながら私を抱きしめるのは先生その人だった。
「ごめんね。曖昧な態度で。でも決めたから。
もう迷わないから」
そう言って背中に回した腕に一層腕に力をこめた。
3番の診察室の前のソファで待っていると右半身に重みを感じた。
それは冷房になれた身体にちょうどいい暖かさと重みを感じさせてくれた。
何だか懐かしい心地がした。
ふと見ると10才くらいの少年がうたたねをして腕にもたれかかって寝ていたのだ。
寝ている最中に思わず倒れかかったのだろう。母親は少し離れた赤ちゃんスペースで
妹を遊ばせている。この少年も松岡先生の担当だろうか・・・・いや患者は妹のほうだ。
それにしても少年はよく寝ている。サッカーかなにかの後でよほど疲れているのだろう。
かつて8才からサッカーを始めた長男のことを思い出した。
夏は真っ黒に日焼けをしてどっちが前だがわかんないねと良く笑った。
そして決まって試合の帰りは車の中で寝た。小さい身体にプレッシャーをいっぱい背負ってボールを追いかけていたのだろう
腕にもたれた半身はピクリともせず眠った。緊張から解き放たれ母親の柔らかさの中で安心しきって寝ていたのだろう。
ついこの前までそうだった長男ももう17才、私より大きく逞しくなった。12才の次男でさえ一端に反抗期で
そばによってくれない。
私ににもたれて眠る少年が愛しく思えた。できればこのままずっと目を覚まさないで欲しいと思った。
我が子の幼い頃の表情と重なってしまったのだ。
思わず見とれていると、「佐伯さん、顔がとろけそうだよ」
先生に呼ばれた。
相変わらず歩行はしにくくなっている。
会話もだ。
入院してた頃とは全然違う。まだ半年しかってないのに。
先生にはそう伝えた。
ぎこちなく診察は終わった。先生も言葉少なかった。
「これ、紹介状。僕の私的な意見もあるから少し多くなったけど・・・なにかあったら連絡くれるように」
「ありがとう きっと何もないわ。
「じゃこれで最後ね、先生。もうお会いすることもないわね。
ステキな先生になって。先生ならきっとなれるわ。これまでありがとう。
それと難治不良でも良くなるようあきらめないわ」。と言って手を差し出した。
「吉野ことも忘れないわ」と言いながら握手をした。。
「ああ。僕も」
「いつかどこかで私のこと見かけても声はかけないでね。それが優しさよ。
じゃ。」1人でしゃべって部屋をでた。
大人でいられただろうか。
涙は見せてない。
そうだリハビリのスタッフにもお礼を言わなければならなかった。
緊張がはずれた瞬間涙があふれた。
「ほーら、先生とのご縁は短かったじゃない」
新幹線に乗った。
ここで降りることはこれからないだろう。
そう思うと景色も愛おしくなる。
新幹線は夏の夕方の町を北に向かって走り出した。。
流れる景色を見ながらも浮かぶのはやはり先生の顔。
「おはようございます」と病室に入ってくるやんちゃな笑顔だった。
大人げないぞ。と思いながらその映像を消せない。
もう人を好きになる歳でもないし、何よりも私は不治の病を抱えた人間なのだ。
他に考えなければならないことはたくさんある。
今日1日だけ許して神様。明日には忘れるから。
その時、風が通り、急に背中が引き寄せられた。
「探したよ」
はあはあと言いながら私を抱きしめるのは先生その人だった。
「ごめんね。曖昧な態度で。でも決めたから。
もう迷わないから」
そう言って背中に回した腕に一層腕に力をこめた。