神さまに選ばれた理由(わけ)


彼の言葉はいちいち最もで、静かにその声に忘れていた記憶が読みがえって
また涙が溢れた。彼は静かに私の手を握った
「澪さんが特別だということを認めたくはなかったのだよ 分かってほしい」
今は違うよ。澪さんの辛さは僕が全部受け止めるから。
翌日病室に向かうときもどんな顔をすればいいのか
若い僕は迷っていた。君を医者として元気にしてやれるのだろうかと
「おはようございます」と声をかけると思いの外君は元気な笑顔だった
膨らんだ目元に泣いたあとを見つけ、胸が傷んだが
大人の君の振る舞いに甘え、僕は病気には触れず検査のことだけを
言って部屋を去った。
「そうだっわね。昨日の今日で元気でいられるわけないじゃんと思ったわ
でもまた言うようだけど逆になにも考えてないようなその笑顔にすくわれた。
天真瀾漫なやん茶な笑顔は病気とは無縁のものだったもん。」
「なにも考えてないって。。。。君の辛さはわかっていたつもりだよ。
風が出てきた。寒くない?車に入る?」
「いい。外の方が気持ちいいから。もう少し。
「続ける?」「もち!」私たちはそのまま続けた。
それから退院まで君は僕に悲しい顔を1度も見せなかった。
でも僕のいないところで君が泣いていたことは別の先生や看護師から聞いていた。
「患者の人生まで若い先生は背負えないだろうと思ったから耐えた。
でも少しでも優しい言葉をかけられるとだめね。すぐうるうるしてしまう。」
「僕もわざと知らん振りしてただ笑っていた。」
「それがよかったのね。先生と話してる間はつらさを忘れられた。。
そしていつの間にかその笑顔を見たいがために辛さを隠していた。
本末転倒してるよね」
「そうだったの。強い人だと思った。辛さを一人で乗り越えて行ける」
「そんなわけないじゃない。先生少しやすんでいい?車にもどるわ。」
「わかった。そう言って助手席に連れていってもらい少し横になった。」
先生は肩を抱いてくれた。私は眠る前キスをせがんだ。
優しく長いキスは会えなかった2年の時間をまたたく間に消した。
外の風に慣れていない私はほんとうに寝てしまった。
気がつくと30分すぎていた。
「ごめんなさいほんとに寝ちゃった」

「いいよ。おかげでじっくり澪さんの顔ながめていられた。」
「まあ」
「今日は一緒にいれるの?お兄さんには門限明日と言われたけど・・・・」
「50のおばさん捕まえて子供みたい」
「でも、君は人妻だよ」
「そうだ。ご主人から連絡あったよ。君を幸せにする自信があるのかって」
「自分は幸せにできなかったから幸せに出来る自信があるんだったらって話?・・・・・」
「そう・・・・病気なってからは逆に苦労掛けてるのに・・・・・」
「ご主人も僕たちの気持ち分かってくれてるんだから公認ということで 人妻と一緒って
・・・・ゾクゾクするな」
「こらあ ふざけるんじゃない」と言いながら私たちはふざけていた。
いくら主人が許してると言っても本当は私も彼も複雑だった。

宿についた。
襖の柄とか箱庭が京都らしいステキな宿だった。
お料理も京会席の上品なもの。「高そう・・・この宿?」
「言っとくけど僕は医者だよ。」
「そうでした。先生はお金持ち・・・」
私たちはゆっくりと京料理を堪能し京の月を楽しんだ。
おたがいの子供の頃の話や親の話。
「母さんはふつーの人。でもいつも僕の1番の味方だった。
でもさすがに自分と歳の近い澪さん連れて帰るとどうだろな?腰ぬかすか?」
「おかあさん大事にしてね 色々と期待もお持ちでしょうから。
それが母親よ」
「庭に降りる?」「うん」私は先生にしがみつき、庭に降りた。
ゆっくりと歩き始める私を気遣いながら。

「どこまで話した?
「強い人だって・・・・私が」
「そうそう、仕事も家庭もみーんな持っている強い人に見えた。だから病気のことも
乗り越えていくって思った。だから君が笑っているときは僕はだまされたよ
ほかの医師仲間や看護師から君が泣いてると聞いた時も、君の
悲しみに介入しないようにした。医師と患者の関係を守るために。
でもほんとは知らん顔するのは辛かったよ。自分から医師であることを捨てて
しまいそうだった。それに・・・「それに?」








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