神さまに選ばれた理由(わけ)
講演が終わった。感動するような話はなかった。
人生が変わるような話も・・・・・・
上手に病気と付き合う方法を聞いただけだった。
医療相談窓口で相談にのってもらった。
先生が身分を隠していろいろ説明してくれたからこっちは楽だった。
まずは次の転院する病院。
この病気の研究が進んだ都内の大学病院と通いやすい地元の
大学j病院ではどちらがいいかとう話になった。
病気の性質上のちのちのことを考え通いやすい病院の方がいいと言う。
次に目のこと。焦点が合いにくくなっている。
単独の眼の病気ではなく視神経もこの病気と絡んでのことだろうといわれた。
手足の運動能力を奪われたうえ言葉も失い、目までなくしたら
生きてる価値なんてあるのだろうか・・・・?
熱心に聴いている先生の横顔を見てそう思った。
会はおひらきになった。
先生とお茶を飲んだ。
講演の話より次の病院の話をした。
先生はもっぱら通いやすい派。
「そうでなければ今から転院する意味がないだろう」と。 
「研究の進んだ病院と今の病院ではまったく違うだろう・・・・」と私
「ぼくみたいな親切な医者がいても・・・・・・」
「それとこれとは別・・・・」

新幹線の時間が近づいてきたので店を出た。
先生がいて助かったのでホームまで送った。
すると急に「花見は行った?」と聞かれた。
「お花見?そんな心に余裕なんてあると思う?
お花見で思い出したけど、2,3年前にね。友達と奈良の
吉野へお花見に行ったの。そしたら見事なまでに桜は終わっていたの。
下千本から上千本までほとんど葉桜。旅行社と相談して4月の中頃に決めたのにさ。
あんまり見事になかったから、神様がまたおいでと言ってくれてんのかと思った。
だから、桜は吉野を見てから死ねという言葉があるように、また元気で来れるんだと思った。
なのに・・・もう行けないじゃない。こんな体になっては・・・・
あそこは歩くところいっぱいあるのに。」
「行けばいいじゃない。歩けるうちに。今年行こうか?そうだ今年は寒かったので
花は遅いって言ってた。行こうよ今度の日曜日に。僕もことしはまだ花見行ってないし、
朝早く出れば日帰りで行けるさ。」
「簡単に言うけど・・・・・先生って意外に強引なのね。主人になんていうの?
こういうのから不倫って始まるのよ。」
「いくつ違うと思ってるの?ご主人には単に友だちと花見って言えばいいんじゃない?」
「急に?」
「だいたいうまく歩けないからそっち心配するよ。あぶないって」
「僕がサポートするから。友達がサポートしてくれるから大丈夫だって言う。」
「・・・・・」
「一晩考えてメールする。もう新幹線くるよ。今日はありがとう。先生がいてくれて
よかった。じゃ気をつけて」
「メール待ってるよ」
「あれ?今まで私のメールうざかったくせに・・・・」
先生は帰って行った。
病気の研究は進んでいるんだ。
私は先生のことばを鵜呑みにしてるけど
みんなよく勉強してる。少しでもよくならないか必死なんだ。
私もこれを機にお勉強しよう。少しでも長く母親をやりたいから。

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