フェアリーテイル
一度しかライネの部屋には行っていないのに、何故かはっきりとここがそうだとミリアにはわかった。
そういう風に出来ているのかもしれない。
妙に落ち着いて、ミリアは部屋の扉を叩いた。中からライネの声がして、ミリアは扉をゆっくりと開いた。
「ミリア…」
焦燥した表情のライネが、ソファに座っていた。
ミリアはゆっくりと部屋に入ると、ライネの傍まで歩いていった。
じっと見つめると、ライネは困ったように微笑んだ。
ミリアはソファに無言で座ると、じっとライネを見つめる。
「私、聞きたいことがあるの」
静かな口調で、思ったよりもすんなりと言えたとミリアは思った。
ライネもミリアが部屋に来たことで落ち着いたのか、静かに頷いた。
「…セイドリックさんから聞きました。私が…いいえ、この世界に誰かが呼ばれる理由」
「…そう」
「でも、あなたから聞きたかった。あなたが私を呼んだんだもの、私には聞く権利があるはずよ」
ミリアの言葉にライネは微笑んだ。
それはどこか悲しみを孕んだ笑みで、ミリアの胸がズキリと痛んだ。
「…最初に話しておけば、よかったのかもしれない」
ライネはそう言うと、小さな溜息を零した。
「言い訳はしないよ。僕は一つ、君に嘘をついていた。正確には嘘、というわけではないけれど」
ライネはどう言うべきか思案しているように視線をさまよわせると、すぐに真っ直ぐにミリアを見つめた。
「この世界を救う為に、クイーンになって欲しい。僕はそう言った。だけど、僕たちが新しい人を探すのには、大抵もうひとつ、理由がある」
この何処か歪んだ、愛すべきお伽の国を、一緒に創り上げていくひと。
それが必要なのだと、ライネは言った。
「愛する人と、一緒に」
そこまで言って、疲れきったようにライネは息を吐いた。
ミリアは、ただ黙ってライネの言葉に耳を傾けている。
「だけど、もちろんそれは必ずしもそうである必要はないんだ。僕は―…少なくとも、君を…」
ライネの瞳が一瞬熱を帯びる。
しかしすぐにその色は消えうせ、まるで廃人の様に輝きを無くす。
ミリアはぎゅっと手を握り締めながら、ライネの言葉を待った。
「僕は、君を愛せない。愛すことができない」
告げられた言葉は、ミリアの胸を抉る。
あぁ、こんなにもこの人のことを―…とっくに好きになっていた。
自覚すればするほど、涙が零れそうになる。それでもミリアは、唇を噛み締めてじっと耐えた。
「…私、もう一つ聞きたい」
ゆっくりと噛み締めるようにミリアは口に出した。
ライネはミリアから視線を逸らすと、先を促すように言った。
「どうして、愛せないの?どうして私を呼んだの?どうして…」
私じゃなきゃ、ダメだったの?
悲しみの海におぼれてしまえれば、いっそ楽だったのかもしれない。
やっとの思いで言葉に出すと、ライネは遠くを見るような目で口を開いた。
「そうだね…君には知る権利がある」
そう言って語りだされたのは、ライネの思い出だった。