フェアリーテイル
5.フェアリーテイル
「ライネ!」
きつく声を掛けられ、ライネは我に返った。
確かに…ユフィの姿を借りて現れた以上、ライネが決着をつけるべきなのだろう。
彼はシルヴィアから剣を受け取ると、ミリアをそっと横たえた。
「ごめんね…」
意識がないのか、浅い呼吸を繰り返すミリアの頬を優しく撫で、ライネは立ち上がった。
「魔女アルバータ…」
「…あハハ…らいね…アイシテル」
狂った笑い声を上げながら、魔女が手を振り上げる。
ライネを掴もうと伸ばした手から、腐りかけた肉がぼとぼとと落ちていく。
「何故ユフィの身体を…」
「オ前タチガ、悲シイ、嬉シイ」
「ユフィもお前が…?」
ライネが剣を握りなおしながら問う。
魔女はぐらぐらとしながら頷いた。
「ソウダ…コノ女ハ絶望シナガラ死ンダ。コノ世界ヲ呪イナガラ。ソレガ私ノ力ニナル」
「何故ユフィの身体を使っている」
「私ハ、オ前タチに触レヌ。ダガ、コイツハ違ウ」
ゆっくりと歩くたび、ユフィの肉体であったものは崩れ落ちていく。
ライネはそれでも、動く事が出来ない。
「ライネ!」
再びシルヴィアに声を掛けられる。
ライネはちらりとシルヴィアのことを見つめると、すぐに魔女に向き直った。
「ごめん、ユフィ。愛してた…」
ライネは言うと、駆け出した。
突然のことに、魔女は明らかに狼狽したようだった。
ライネはユフィを壊せない、と思っていたかのような。
肉を切った感触はしない。乾いた、虚しい感触。
まるで最初からそこに、ユフィの肉体などなかったかのように。
「ヤ、ヤメ…」
それ以上魔女は続ける事は出来なかった。
剣が深々と刺さると、その刀身からまばゆい光が溢れる。
眩しさのあまりライネとシルヴィアが目を閉じた。
「…くそ」
二人が目を開くと、そこには何もなくなっていた。
剣は相変わらずライネの手におさまっていたが、粗末な剣だったものが、見事な装飾のされた剣に換わっていた。
刀身に精密な彫り細工が施された剣に。
「終わったか」
背後から声が掛かり振り替えると、そこにはディモンが居た。
さして興味もなさそうに、ライネの持っていた剣を見つめる。
「…最初から、こうなることをわかっていたのか?」
シルヴィアが尋ねると、ディモンは肩を竦めた。
「まさか、そっちのお嬢さんを狙うとは思ってもみなかったが」
「…!ミリア!」
ライネは剣を投げ捨ててミリアに駆け寄ると、その手をそっと握った。
「大丈夫だ、急所は外れている」
シルヴィアが言うと、安堵したようにライネはミリアを抱きしめた。
「よかった…」
「この剣は私が責任をもって保管する。いいな」
ディモンは無感情にそう言うと、軽々と剣を持ち上げた。
シルヴィアもゆっくりと立ち上がると、そっとライネを振り返った。
「…ミリアを部屋に運んでやれ。それから、医者を手配する。お前はそのままついていてやるといい」
そういうと、彼女は颯爽とその場から去っていった。
ディモンもこれ以上はここに長居するつもりはないようで、剣を持ってシルヴィアの後を追った。
ライネだけが、ただミリアを抱きしめたままそこに残った。