秘密の時間
いつも以上に優しい部長。
心配そうに私を見つめる眼差しは真剣で、なのに私はどうしてこの瞳をちゃんと信じてあげられなかったんだろ…。
「美優、ごめん……。気付かなくて。
美優、けど俺は、美優と一緒ならどこだっていいと思ったんだ。
誰にも邪魔されない場所。
こんな風に手を繋いでも、堂々としてられる場所で、美優とのんびりしたかったんだ」
「……」
部長の台詞が胸に痛い。
部長だって考えあっての事。
そうと分かると、本当に自分勝手な思いに恥ずかしくなった。
「…部長」
「ここは会社じゃあないから、名前で呼んで」
「な…名前?」
「まぁ、手始めに、『大橋くん』?『大橋さん』?」
部長の表情が、ふっと緩む。
そして、早く。なんて催促するような視線を私に送る。
「お、大橋…さん…」
「下の名前にも、挑戦する?」
少し悪戯な表情を浮かべた部長はそう言った。
「…巧〈タクミ〉さん」
「……」