秘密の時間
少し歩いて小高い丘に登り、眼下に見える夜景をふたりで見つめた。
「これを美優に、見せたかったんだよ」
そう言って肩を抱き寄せた部長は、私の事をちゃんと一人の女性として見ていてくれたみたい。
優しい声音から、彼の気持ちが溢れている様だった。
それから少しの間、そのまま夜景を見つけていた私達は、暖を求めるように車に乗り込んだ。
「晩飯、どうする?美優は何食べたい?」
やっぱりいつもと違う部長の甘い物言いに、私の鼓動は一々反応しドキドキしてしまう。
「ぶ…大橋さんに、まかせます」
言い慣れない彼の呼び名に、それですらドキドキしている私は、本当に恋愛初心者で、もっと大人振りたいのにどうしても余裕がない。
「美優の好きなジャンルは?」
なんてスルリ出てくる部長。
ジャンル云々より、部長と一緒に居られる。それだけで今の私は満足だった。
「とりあえず、俺の行き付けでいい」
部長の台詞に頷くと、車はゆっくりと走りだした。