秘密の時間


部長が連れて来てくれたのは、会社近くの居酒屋だった。



暖簾をくぐり中へ入ると、温かな湯気の上がる料理が立ち並ぶ、一見小料理屋みたいなお店だった。



「あら、大橋くん、久しぶりね」



カウンター席に腰を下ろすと、すぐに女の人の甘ったるい声が掛かった。



「そ、そうかな?つい最近も来たと思うけど?」


「いやぁね、彼女連れで。って事よ。

それにしては随分と若そうね」



値踏みでもするかの如く、その甘ったるい声の女の人は、私を見つめる。



居心地の悪さを感じながらも、私は部長の隣でおとなしくふたりの会話を聞き入っていた。



やっぱり大人な部長だけあって、こういうお店の人とも気安く話せてしまうのかもしれない。



私は出された料理に舌鼓しつつ、やっぱり子供ぽい自分の姿を心の奥底で恥じていた。



部長には、きっと大人な女性が似合う。



ふたりを見ていてそう思った。


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