秘密の時間


「めずらしいな、残業か?」



またまた通りかかった部長が私に声を掛ける。



「なんか顔色悪いけど、大丈夫か?」



そう私にしか分からないぐらい小さな声で聞いてきた。



でも、私は上手く応えられない。



恩田さんが持っている写真の事を、本当は彼に相談したいけど、何となく言ってはいけない気がした。



『ばらまく』



恩田さんのその台詞が一瞬にして頭を駆け巡る。



「心配事でもあるなら、後でメールでもするといい」



私の態度がおかしいからか、部長はそう言うと「お疲れ!」なんて肩を叩いて私を帰らそうとする。



けど……。



私の事を心配そうに見つめる部長の視線に気付くと、やっぱりここに居るのはマズい気がして、


ひとまず「お先に失礼します」とフロアを出た。



定時をだいぶ過ぎた社内は、残業で残る人達以外はもう帰ってしまったためか、人も疎ら。



何となく、まずい状況にならない事を祈りながら、その日は家路に着いた。


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