秘密の時間


それから暫く経ってからフロアに戻った私はかなりひどい顔をしていたのだろう。



席に戻る途中、黒澤さんがわざわざ声を掛けてきた。



「中村さん、大丈夫かい?顔色だいぶ悪いみたいだけど」



そう声を掛けられても、軽い錯乱状態の私には、返す言葉すら見つからない。



「……」



無言なまま足を止めてしまった私は、ただ黒澤さんの顔を見続ける事しか出来ない。



そんな私の様子をおかしいと思ったのか、黒澤さんは私の背中に軽く触れ前に進むように促した。



私はそれに従いなんとか自分の席に辿り着く。



けど、今私の頭の中は仕事の事なんて考えられない。



さっき恩田さんから告げられた言葉だけが頭の中で何回も何回もリピートされている。




『悪いようには、しないからさ…』


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