秘密の時間



金曜の夜。



いつもの様に私は一人、彼の部屋に向かう。



忙しい彼はまだまだ仕事は終わらないから、いつも金曜の夜
、彼の部屋に私は一人で向かう。




彼から渡された鍵をバックから取り出し、彼の部屋の中へ。




この鍵は付き合い始めてすぐに彼から渡された。



『美優がいつでも、この部屋に来れるように…』と。



その時のはにかんだ彼の笑顔は、私より年上なのになぜか『可愛い』なんて思ってしまい、私までほんのりと部長と一緒に頬を赤らめた。




そんなほんわりした記憶。



でも、一人でこの部屋に入るのはやっぱり今でも躊躇ってしまう。



ここは元々、部長と前の奥さんの愛の巣。



そんな場所に私が入り込んでいいの?



確かに、もう別れてしまったらしいけど、



でも、今まで部長は女の人には見向きもせずに仕事に打ち込んでいた。



あんなに言い寄られても、誰一人として相手にしなかった。とチラッと聞いたことがあった。



それって、いつまでもその、前の奥さんが忘れられなかったからじゃあないのかな?



もしかしたら、今でも……。




しんと静まりかえった部屋は、なんだか私を拒んでる様にも感じる。




だからいつも、早く帰って来て。と祈る。




「巧さん、早く……」











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