秘密の時間



バスルームから出ると、交替で巧さんが入って行く。



そのすれ違い様、彼がぼそっと私の耳元で囁いた。



「すぐ上がるから、ベッドで待ってて……」


「………」



この台詞、毎回言われているのに、いつでも私は顔を赤らめてしまう。



ちゃんと返事も出来ないまま、ただ押し黙り俯いて……。



彼はそんな私を確認すると、いつもながらすましてバスルームの中へ消えて行った。



で、私はと言えば、結局巧さんの言うことも気がず、リビングのソファーで冷たいウーロン茶を飲みながら彼がバスルームから出てくるのを待った。



まだ乾ききらない髪の毛。



それをひと掬いして匂いを嗅ぐ。



いつもと違うシャンプーの匂いに、そして、いつも嗅ぎなれてる彼の匂いにほっとする。



彼がここに居なくとも、彼を感じられるから。



「……美優、ここに居たの?」








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