秘密の時間

渦巻く嫉妬




いつの間にかドライヤーを片手に私の髪の毛を弄ぶ巧さん。



肩より少し長めの髪に、思った以上に苦戦を強いられているみたいで。



時々うなじに触れる巧さんの指先にピクリと肩が揺れる。



そのたびに巧さんは「わるい…」なんて言葉をくれる。



全然巧さんは悪くないのに、謝るなんて。



そう思う反面、その『わるい…』の意味を深く探ってしまう私が居る。



もしかしたら、前の奥さんに向けていい放たれていたとしたら……。



この部屋には、巧さんと前の奥さんの写真は一つもない。



ふたりの形跡はほとんどない。



なくても、なんだかこの空間にいると不安ばかりが私をがんじがらめにする。



この部屋でどんな会話をしたの?


どんな思い出がここにはあるの?


やっぱり前の奥さんにもこんな風にしてあげていたのかな?



どんなに気になってもなかなか私の口からは切り出せない。



左手の指輪はいつの間にかなくなっていたけど、


その理由すら私は聞けないでいた。










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