秘密の時間
「もう少し、いいかな?」と遠慮がちに巧さんは私に問い掛ける。
私はこくりと頷いて、再び彼の話しに耳を傾けた。
「……指輪の話しもまだだったよな。
あの指輪は、咲季と結婚が決まってすぐに二人で買いに行ったもんなんだ。
あんまり咲季とはデートらしいデートはした事なかったから、でもたまたま二人で街をぶらぶらしてた時、咲季に連れられて入った店で見つけたんだ。
あの頃が、一番幸せだったかな?
実は、結婚してたと言っても、夫婦らしい事はあまりしていないんだ。
確かに、あの家で二人で一緒に住んでた。
けど、新婚の数ヶ月だけ夫婦ごっこみたいなことをしただけで、そのうち仕事が忙しくなって咲季に構ってやる時間なんてなかったんだ。
仕事にかまけて咲季を自分から遠ざけたんだ。
仮面夫婦。
だぶん咲季と俺はそれだったんだと思う。
だから咲季は俺以外の男に走ったんだ。