秘密の時間



「ここんとこ……毎週、来てるよね?」



受け取ったタオルで濡れた身体を拭きながら、そんな俺に声を掛けてくれた足立さん。



彼はふと、そこで言葉を切り、何かを思い出したかの様に俺に訊ねてきた。



「もしかして、あの事故の関係者かな?

悲惨な事故だったからね。まさか、この直線道路であんな大きな事故が起きるなんて思いもしなかったよ。

不運だよね。居眠り運転のトラックに突っ込まれるなんて……」


「………」



その事故からはかなりの月日がたっていたが、今だにあの事故の事を覚えている人が居るなんてびっくりした。



人の記憶は風化されてしまうものだから。



それに、この人は当事者じゃあなく他人事。



それでも、まだ覚えている人も居るのかと思うと少しほっとした。



「で、彼も亡くなったのかな?

君はあの彼の友達、だろ?」


「………」



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