秘密の時間


「ねぇ中村さん、手が梳いてたらお茶にしない?」


いつもながら先輩おじいちゃんからのお茶の誘い。


私の他にも女子社員は居るのに、声が掛かるのはいつも私だ。


「はーい、


でも、もう少し、待って貰って…」


もいいかな?



そう言おうとした時、


「中村、これ営業に持って行ってくれないか。
あと、ついでにこの資料…」


窓際の席に座る部長から声を掛けられた。



えっ…?


なんてびっくりしながら部長の席へ向かうと、はい。とファイルを渡された。


「これ、営業の小山課長に渡して。それと、帰りに資料室からこれ、とって来て」



その場ですらすらと紙切れに文字を書いて行く。


そしてファイルの上にちょこんと載せると、部長はニコっと大人な笑いを見せた。


「じゃあ、よろしく」



すぐにデスクに落とされる視線。


ただ、名前を呼ばれただけでもドキドキしている私は、もう夢見心地みたいだ。


そして、先輩おじいちゃんの席の近くを通ろうとした時、


「中村さん、忙しそうだからお茶いいや。ごめんね。仕事、頑張って」


呼び止められ、こっそりそう言われた。


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