秘密の時間


「あのー、部長…?」

「なんだ」


背の高い部長の隣で、私は部長の横顔を見つめる。


タクシーを見送って、だいぶ経つというのに、私達はいつまでもこの場所から動けない。



どうしよう…。



わざわざ私の為にタクシー降りちゃった訳だし、

このまま私だけ帰るわけ行かないし…。



冷たい夜風が吹き抜ける。


いくらお酒に飲んでいても、この風に晒されてたら身体がひえちゃう。


でも、うちに部長を上げる訳にはいかないし。



どうしよう…?



ふと、目の前に差し出される手。


部長の大きな手が、わたしの手を絡めとる。



「少し、歩くか…」

「…はい」



私のアパートを横目に過ぎ、歩きだした部長と私はしっかりと手をつないだまま暫く歩いた。



ふと目の前にコンビニが見えると、迷うことなくふたりで入って行った。


「少し暖でも取らないとな」


温かな食べ物温かな飲み物。


暗闇の中明るい店内は、一筋の希望の様に暖かく私達を包み込む。


「何か食べるか?中村」


部長の隣、並んで見るコンビニの商品はどれも真新しく見えて、そして嬉しい。


こんな風に部長と、一緒にコンビニに来てしまうなんて、端から見たら私達は恋人同士に見えるちゃうのかな?


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