秘密の時間
「ん?どうかしたか」
部長から温かなミルクティーを頂くとそれを両手で包み込んだ。
来るときは部長の手に包まれていた私の左手。
暖かだったその手が、今はここに無いのが寂しかった。
「で、これ食ったら家まで送るぞ」
「……」
歩きながら缶コーヒーの蓋を開け、片手にコンビニ袋をぶら下げてる部長も、やっぱりカッコいい。
そんな事思ってるより、どうしよ?
また来た道を戻り始めた私達は何となく黙り込んだまま歩いて行く。
「星が、きれいだな」
足元ばかり気にしていた私にその呟きが聞えたのは、私のアパートに程近くなってからだった。
その声で顔を上げると、私を見つめる部長の視線とぶつかる。
「もう酔いは醒めたか?」
「は…はい」
「よし。じゃあ俺は帰るか」
部長はそう言うと私の頭をよしよしと撫でる。
その手が優しくて、私を見つめる眼差しも優しくて、胸がキュンっとする。
「駅って、こっちだよな?」
部長がふっと視線を逸らし、頭の上にあった手もいつの間にか離れていって、
ただ立ち尽くす私から部長はそっと離れた。
「部長、あのー…」
「まぁ、自分の住んでるとこなんて知られたくないよな。ましてやこんなおじさんに…」
「そ…そんなんじゃあ…」
「ここで別れよ。
おやすみ」
そういって背を向け駅に向かって歩いていく部長。
私は何も言えず、ただ部長の背中を見送った。