秘密の時間
携帯からは無機質な電子音しか聞こえない。
なんだか物凄い展開を見せた携帯電話に、ため息を落としテーブルの上に置く。
「なんか、はめられてたみたいだね!」
「は、はめられてた。って…」
葉子ちゃんは落ち着いた態度でコーヒーをおかわりしている。
よくよく考えると、小山課長は自分の番号ではなく、なぜか大橋部長の番号を名刺の裏に書いた訳で…、
なんでそんな事をしたか謎だけど、その結果、部長はここへ来る事になってしまった。
「それより、どうしよう?葉子ちゃん。部長来ちゃう…」
「大丈夫よ。大橋部長大人だし、きっと悪いようにはしないよ」
「……」
その台詞の意味はよく分からないけど、葉子ちゃんはいつもの堂々とした葉子ちゃんに戻っていた。
「私、部長来たら、帰るから!」
「ち、ちょっと待って、葉子ちゃん。私ひとりじゃあ…」
心細いし、どうしたらいいのか分からない。
「葉子ちゃん、お願い!一緒に…いて」
「ダーメ。これは美優と大橋部長の問題。
他人の私が口出し出来る問題じゃあないの!」
問題…って。
ここまで葉子ちゃんが言ったら、もう梃子でも動かない葉子ちゃんの事だから帰ってしまうのだろう。
大橋部長が来たら。
私はそれ以上何も言えず、静かに目に涙を貯めていた。