桜舞う頃に
「そなたはゆくゆくは后がねとなる身。


労られよ。


そなたを見ればさぞや東宮も心を動かされましょうぞ。」


たまに会いに来る父君はそうとしかいわない。


私の身を心配などせず、その先に見える権力を得ることが出来なくなることを心配する。


私のことなんて眼中にない。


私の気持ちを無視して・・・・・話を進める父君。


私は、私は左大臣家の姫君であっても淑子なのに。


どうして誰も“淑子”を無視するの・・・・・?


父君が母屋に戻った後、淑子は涙を流していた。



宮中に出て、恥ずかしくないよう、他の女御、更衣に負けないよう・・・・・・


そういって教養をつけさせてばかりで自由がない。


外に出ることも、誰かと遊ぶことすら出来ない。


異母兄の篤高は既に父君の考えに沿う妻を迎え、本邸を出て行っている。


あの2人は元々気が合うからいい。


元々幼馴染の関係だから・・・・・


篤高の妻となったのは内大臣家息女の雅子姫。


母が現帝の妹君にあたる高貴な方である。


「もう・・・やだぁ・・・・・」


顔をゆがめ、淑子は泣きだしていた。


この場所に閉じ込められるのが嫌でたまらなかった。


そんな淑子を見ながら心配そうにしているのが淑子付の女房である相模だった。


だからだろう、母である倫子に頼み込んでくれていた。


「姫様はこのところ塞ぎこみ、元気がございません。


静養のため、しばらく別邸に行かせて差し上げてくださいませ。」


そう頼み込んでいた。


いくら相模といえど、東宮入内を失くすことは出来ない。


未だ東宮からいい返事が来ていないことが淑子にとって希望であるが、それもいつまでもつか分からない。


東宮たるもの、いづれ妻を娶らねばならない。


そして、淑子の家は左大臣家。


摂関家でもある左大臣家の申し出を断れないのだから。


「分かりました。私の方から殿には取り成しておきましょう。」


最初はいい顔をしなかった父も母のとりなしでそれを認めてくれたらしい。


母からの文では覚悟を決める時間を差し上げます


そうしたためられていたのだから。


事態が好転したわけではない。


だけど、淑子にとっては嬉しかった。


一人でいられることが・・・・・


お供を2、3人連れ、左大臣家ゆかりの別邸に向う淑子。


そこは緑豊かで、自然が多く、淑子が気に入っている場所だった。


< 3 / 8 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop