桜舞う頃に
牛車に乗って都から一両半日・・・・・

その場所に左大臣家ゆかりの別邸があった。


ほとんど父や母は訪れない場所。


淑子も幼い頃から2、3度しか来たことのない場所だった。


牛車から降り、通された部屋からは萌出ずる花々が見え、御簾ごしではあるが心地よい風が入ってくる。


御簾近くから外を覗く淑子に相模は


「姫様、そのような端近にお寄りになってははしたのうございます。下々の者にお姿を見られてしまいます。」


そう告げるが、気にしないという風に淑子は言った。


「大丈夫よ?相模。


ココはほとんど誰も住んでいない人里はなれた別邸ですもの。


誰もこの場所に来るわけはないわ。


ねぇ、御簾を上げて頂戴?


庭の花々をゆっくりと見たいの。」


久しぶりの開放感からか、淑子は相模に御簾を上げるよう言った。


心配そうではあるものの、淑子の表情が冴えないことから出来るだけ叶えてあげようと考えたのであろう。


相模は御簾を上げていく。


ほとんど来ることのない別邸とは言えど、手入れは行き届いていたらしい。


都の家とは違う庭の作りに淑子は笑顔を浮かべていた。


そんな淑子を見て安心したのであろう。


相模はするべきことがあるからとその場を辞去し、淑子を一人にしてくれた。


いつまでもボーっと見て和む淑子ではなく・・・・・


いつの間にかあの話に戻ってしまう。


考えたくはない、逃れたいと思うのに・・・・・・


そんな自分が嫌で・・・・・


この場所を離れたくて・・・・・


淑子は突発的に履物を用意すると屋敷から抜け出すのだった。


まさかこの先、運命の出会いをしようとは淑子にも知りようがなかった。
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