X人のご主人と愉快な式神たちの話

 
《おい七衛門よ》

「ぬ!?」

 蓋翁が放り投げたのは、七衛門の持つ襤褸刀である。

 用意周到、準備万端――さすがは朧蓋翁。

 万が一を想定し、彼が刀を持ち出してくれていたのだ。

「ありがとうよ、蓋翁!」

 七衛門は口に刀の、墨色の鞘を咥えるや刀をしゃりんと引き抜いた。

単なる襤褸刀である。今にも刃こぼれせんばかりの、だ。

しかしその刀がなぜか、七衛門に引き抜かれた瞬間、彼の妖気を帯びてか、妖しく光ったようだった。

 七衛門は右手に刀を持ち、梵天印を左手に結んだ。

「ナウマク・サンマンダ・バザラダン・カン!」

 不動明王一字哭を放つや、見えぬ結界が大首の行く手を阻んだ。

「オン・コロコロ・センダリ・マトウギ・ソワカッ」

 襤褸刀を抜き放つや、七衛門はその切っ先で宙を切った。

空気の塊か、刃より放たれた気功が大首の顔面を打つ。

 しかし、大首はたいして傷を負った様子ではない。

あっけらかんとした挙句、勢いよく結界に黒い歯を立てた。

結界が、みしみしっ、と破壊寸前の効果音を立てる。

「げっ」

《おっ》

 やまった、やはり一字哭ではだめだったか。

 七衛門は思って頭を一つ振った。

「蓋翁、ひとまず逃げろい!」

《そなたは逃げぬのか》

「俺ぁ、まだまだでいっ」

 刀身を顔の前に翳し、七衛門は地を踏みしめて四股立ちになった。

「ふぬぬぬうう・・・」

 思ったよりも薄い結界は、壊れかかっている。

そうはさせるものかと、七衛門はあるだけの呪力を振り絞り、結界を保っていた。





 
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