X人のご主人と愉快な式神たちの話
鬼門雅晴は、法師である。
法師というと寺にいて経を読むというのが主流だが、鬼門家はちいと流派というか歴史が違う。
法師陰陽師、というものが平安時代には溢れるほどいた。
何でも僧坊の格好をしているが頭を丸めておらず、妻帯もする、肉も食う。
だがしかし陰陽師と同様に方術(ほうじゅつ)とかいうものを駆使する。
平安朝の破落戸、それが法師陰陽師。
かの有名な安倍晴明のライバルとして描かれた、蘆屋(あしや)道満(どうまん)も、法師陰陽師だ。
鬼門家はそれらの――一介の法師陰陽師の末裔である。
本格的な、形だけとて法師となったのは雅晴の祖父の代のこと、
「法師陰陽師の末裔で、方術は使えて法師でないとはどういうことかっ」
などと変なことにこだわって、祖父はとうとう本物の法師となったのだった。
やはり方術が使えるゆえか、見えぬ妖かしの悪さに困り果てた自治体などが、
人知れずこっそりと依頼を持ちかけてくることがある。
それで、鬼門家は成り立っていたりする。
そういうことで、中学生に上がった時からすでに、雅晴もそれに駆り出されることとなるのだった。
なぜ、鬼門雅晴が、さきほどの《陰陽師の末裔万能説》に反吐を穿いたか―――。
それは、すべてが彼女自身にあった。