X人のご主人と愉快な式神たちの話


 * * *


 破れ寺を見ると無性に虚しい想いに駆られてしまうのは、

やはり十六歳といえど坊主としての性なのだろうか。

 猫じゃらしやらすすきやらが生い茂った破れ寺は、いかにも狐狸の類が出そうである。

戸のところどころが中に向かって倒れ、障子などには穴が開いてしまっている。

 地域の子供らがいたずらで遊びに来たところ、

「おおう……、おおい、おおい……」

 と、身をよじるような低い慟哭が、そこら一体に轟いていたのだった。

「おおおおおおん!」

「うおおおーん!」

 女の、狼の如き声が地を揺らした。

その刹那である。

「ぎゃあ!」

 子供の一人が声を上げた。

「ひい」

「うええっ」

「きゃあっ」

 子供たちが次々と恐怖の色に染まった悲鳴を上げた。

 木が風に揺られた瞬間、

べちゃり、べちゃり、と――――

その木から、木の実でも落ちるように血に塗れた黒髪が、慟哭と共に落下したのだった。

 慟哭の次に地を揺るがしたのは、その子供たちの悲鳴だったそうな。






「こんなに襤褸の寺でも、一応仏様はいるんだろうなあ。南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」

「仏様、とはいかなるものにございますか?」


 この兵士は、日本の生れではない。

成り立ちや生い立ちも定かではないし、雅晴以外の主があったわけでもない。

だからおそらく、仏というものを知らぬのだろう。


「仏ってのは、インドやら中国やらから伝わった神様の一種さ。

今じゃあ、死人のことを仏とも言うな。

ちなみに、いまあたしが仏様と言ったのは、死者のことさ」

「ふうん」





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