X人のご主人と愉快な式神たちの話
兵士の瞳には、大した美しさもない雅晴の顔が映っている。
あの顔が毎朝、パンが嫌いだ、だの、ココアなんぞ誰が飲むものか、
だのと文句を言っては味噌汁を炊いた白米にぶっかけて飲み込むのだ。
至って普通の、いいや、悪く言えば不細工な面である。
それでも現実的でかつ、最悪な性格でも誰でも平等に見るからこそ嫌われることはないのだろう。
―――主様は、人間ではないのか。
時折、兵士は思うことがある。
そう思う兵士こそ何を考えているのか見当もつかぬが、この鬼門法師もなかなか謎が多い。
―――なあ、グランドパンツァーよ。
構えられたいくつもの機銃のうちの一つの、その銃口をなぞり、
手入れもろくにされていないそれを爪で掻いた。
―――我らの主は、人かモンスターか、どちらだろうなあ。
モンスター、それをこの国では「妖かし(あやかし)」と称して古来より恐れるという。
どの国でも、古き時代にはそういうものへの対抗があった。
魔女狩り、吸血鬼狩り、悪魔祓い―――など。
それで多くの人が犠牲となったのだ。
本当に妖かしより、モンスターよりも恐ろしいものが何かを知らずに、
人というのは常に何かを恐れ続ける。
その恐ろしいものの正体を、おそらく雅晴は熟知している。
だからこそ―――――ではないか……。
「……来ねえじゃねえかよ!」
痺れを切らしたようだ。
雅晴は渋い面になって牙をむき始めた。
「現れませんね、遅刻してパンでも咥えてくるのでしょうか」
「どこの高校生だ、どこのギャルゲーゴーストだコノヤロー」
「確かに古いものでございますね。
今時だったら宇宙とか異世界から女がやってくるものでございます」
「いや、それは萌え系専用の設定だろうが。
やっぱり萌え系はツンデレだよ、遅刻してパンを齧るようなへまはしねえよ」
「私はツンデレよりもヤンデレ萌えですので」