X人のご主人と愉快な式神たちの話
大威徳明王印をその手で結び、覚悟、とばかりに真言を天に放った。
「オン・シュチリ・ビキリダナ・サルバ・シャトロ・ナシャヤ・サタンバヤ・ハンハンハン・ソワカ!」
印を解くと雅晴は、その掌にたまった気功を巨木に向かって放った。
びくり、とその巨木がしなった。
「扮!」
兵士が手を横殴りにさせると、パンツァーの銃口が女に向いた。
ずががが、と鋼の色の弾丸が女に発射される。
幽霊に肉弾戦や物理的な攻撃など通用するはずもないと思われるが、
やはりそこは幽霊の一種であるグランドパンツァーの攻撃は有効のようで、
女が大いに怯む様子を見せた。
《ぎゃあ》
弾の一つが当たったと見える。
逆鱗に触れられた女が、人の速さとは思えぬ速度で、
露の如く消えたと思えば雅晴の眼前の出現した。
《おのれ》
女の目の窪みは、無限に続く大穴に似ている。
何かによって掘られた大きな冥界へと続く、ぽっかりとした虚しい穴である。
《あなたもかえ》
女が髪をうねらせて、そうぼやいたのだった。
《あなたも、わたしを責めるのかえ。恋しく思うただけの私を責めるのかえ》
はっとした雅晴は、一瞬だけ印を結ぶ手を震わせた。
しかしそうしている余裕などあるはずもない。
「オン・センダ・ハラバヤ・ソワカ」
再び奮い立った髪どもめがけて、雅晴は縦棒に丸めた呪符を放った。
髪どもはあの巨木と同様にびくりと身を震わせるや、非力にもその場に次々と落ちたのだった。