X人のご主人と愉快な式神たちの話
「ナウマク・サンマンダ・ボダナン・バンバク」
雅晴の真言と共に、彼女が自らの頭から引き抜いた髪の毛一筋が、蛇の如くうねり、
縦に伸びてその白露を取り巻いた。
「バン・バク・ソワカ!」
ばん、と雅晴は合掌した。―――心の片隅で、すまぬ、を思いながら、だ。
髪はその露、女をぎりりと締め上げた。
さすがに最後と悟ったと見える。女は泣きつくように、低い声で、
《邪魔せんでおくれよう、私は、わたしはまだ終わりたくないんだよう》
恐ろしい声ではない。
雅晴は合掌したまま、性悪な人間とは思えぬ台詞を発した。
「あたしゃあよ、人間は嫌いだぜえ。
うわごとばっか呟いて、おべんちゃらだ。
だがよう……あたしゃあ、人間じゃないものには、優しくしてるつもりなのさ」
パンツァーの弾丸は、女だけに命中した。