X人のご主人と愉快な式神たちの話
生物実習室に、怨霊と思しきものは確かにいた。
「おおう、おおおん」
低く轟くは、男とも女とも知れぬ怨霊の慟哭。
怨霊は人の怨恨、恨みつらみから誕生するものだ。
あの外法師の言うとおり、元は人。
妖かしを相手にするよりも格段に楽だ。
「おい」
誰も聞いていないと思って、唯斗は本性をさらけ出して怨霊に言った。
「むう……」
憎らしげにしかめられた怨霊の顔は、醜くただれている。
「ここで騒ぎを起こしてんのは、てめえだな」
「ぐむう」
「悪いけど、調伏させてもらうわ」
言うなり唯斗は剣印を結ぶや鋭く叫んだ。
「オン・アビラ・ウン・ケン・ソワカ!」
「ぎゃっ」
鋭く放たれた呪を受け、怨霊は迸った調伏の法に身をよじって見せた。
おのれ、とばかりに怨霊が口から真紅の液体を吐き出す。
《旦那、気を付けなせえ。この液体は呪がかかっていますぜ》
「わかった」
ゆったりと流れてくる液体をよけ、唯斗は刀印を横殴りに放った。
「斬掻(ざんそう)!」
ざっくりと怨霊を切り裂いた呪は、しかし建物にあたってもそれらを傷つけはしない。