X人のご主人と愉快な式神たちの話
すると。
「あっ、ここにいやがった。おい水上!また勝手に怨霊調伏してやがるな」
バットタイミングというべきか、あの外法師めがやってきて実習室の外から騒ぎ立てた。
ま小うるさいのが来た。
「怨龍」
《あいよ》
ふしゅうう。
怨龍の口から吐き出された睡眠ガスに気付いた外法師はとっさに袂で口を覆ったが、遅かった。
ガスが外法師の鼻腔に入り込み、その意識を遠のかせる。
「おめ、え」
どっさり、と閉め切られた実習室の戸の前に突っ伏した外法師のことなどさておき、ゆいとはさっさと先頭に集中した。
「ちょっと眠ってろ」
言って唯斗は刀印の指先を怨霊に向けた。
(……わかってらあ。
どうせいうんだろ、怨霊の成り立ちは知ってんのか、とか、ちゃんと気持ちを考えてんのか、とか)
唯斗は毒づいた。
あの外法師めはそうだ。
常に自分のやり方を悪しざまに言っておきながら、いざやり方を見てみればきまって勧善懲悪である。
くだらねえ、し、気に食わねえ。
唯斗の気持ちが分かるものなど、きっといないだろう。
命を分けた相棒、この骨翼怨龍くらいしかこの苛立ちは分からぬだろう。
《……おい旦那よ、気が狂っちまってんぜ》
「うるせえよ」
《悩んでるなら保留が一番ですぜ。
その場しのぎで茶を濁しってな、くけけけっ。
ねえ、旦那あ》
「怨龍よ、言いてえことがあるなら、お前こそ素直に直接言ったらどうだよ」
符を抜き取った唯斗は、
「封」
と吐息を吹きかけて、優雅にひらりとまった呪符は、数分後にはその怨霊の体のすべてを吸い込み真紅に染まっていたのだった。