X人のご主人と愉快な式神たちの話

山伏小僧、吟彩と気まぐれな仙狐




華の平安京とはよく言ったものだが、貴族ならぬものからみれば、この京は、ぱっと見を綺麗に飾っただけの汚らしい箱庭である。


貴族たる豚どもが繁栄している華やかな帝都でこそあるが、外側の町では常に飢えて痩せ細った民がいる。


そして餓狼と化した鴉どもが、死した餓鬼の骸を啄ばんでいる。


これこそが平安京の実像だ。


ーーーぱきり。


平安京を囲う築地の外にある、森。

猪や狐狸の類がいつでてもおかしくないような森の中で、山伏装束の子供が火を炊いている。


齢は九つばかりか。

子供は男とも女ともつかぬ顔立ちをしていた。

しかも髪を結い上げているので、どこぞの忍びの子に見えなくもない。

火の上には、面妖にも水の入った鍋がひとりでに浮いている。


「そろそろかな」


子供が手を合わすと、辺りに燃え広がることなく、されど赤々としていた火が途端に姿を消した。

すると今度は、鍋がどしんと地に落ちる。

子供は椀を取り出し、鍋に入った湯から何かを掬い上げる。

茹でられた、栗だ。

「どれどれ」

子供はなんのためらいもなく素手で栗を摘み、それを口に放りこんだのだった。

「うむ、まあ美味い」

子供はやけに感情のこもらぬ声で言った。

≪吟彩(ぎんさい)さま。

毎日栗だけを食べていては、背が伸びなくなってしまいます≫


子供の傍で、そんな可愛らしい声がすみ通る。

吟彩と呼ばれた子供は、傍で発された声になど気にもとめず、あつあつの栗を喰っている。

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