X人のご主人と愉快な式神たちの話
「ここのところ、雇ってくれる貴族がおらぬのだから、
仕方なかろう」
《栗では腹は膨れませんよ》
「食わぬよりはマシさ」
ため息をひとつつき。
吟彩はあまり味のしない栗を、ただひたすらもぐもぐと喰った。
そんな吟彩の横に現れたのは、彼と全く同じ姿形をした、ちょこまかとした子供であった。
《ここのところ、あたりの草が騒ぎすぎてごさいます。
いまだって、いろんな雑草が花粉を……くしゅん!》
花粉に対して過剰反応する異質なのか、もうひとりの吟彩は多いにくさめをした。
すると、
ーーーぼひゅん、と。
たちまちその吟彩の体を白煙が包み、辺りに散っていた枯葉が舞った。
そして煙が晴れるとーーーなんと、そこにいたのは吟彩ではなく、
艶めく毛並みの、小ぶりな狐であった。
《くしっ!へっ、くしっ!》
「おい葛の葉(くずのは)よ、大丈夫か」
葛の葉なる子狐は、秋になるとよくくさめをする。
しかし、今日に限っては一段と酷かった。
ので、さすがの吟彩も一声かける。
「はっ、はひっ……」
「くしゃみに効く薬でもあれば良いのだがなあ。
お前のその病ばかりは、あちきでもどうにもできぬ」