X人のご主人と愉快な式神たちの話


「ここのところ、雇ってくれる貴族がおらぬのだから、

仕方なかろう」


《栗では腹は膨れませんよ》


「食わぬよりはマシさ」


ため息をひとつつき。


吟彩はあまり味のしない栗を、ただひたすらもぐもぐと喰った。


そんな吟彩の横に現れたのは、彼と全く同じ姿形をした、ちょこまかとした子供であった。


《ここのところ、あたりの草が騒ぎすぎてごさいます。


いまだって、いろんな雑草が花粉を……くしゅん!》


花粉に対して過剰反応する異質なのか、もうひとりの吟彩は多いにくさめをした。


すると、


ーーーぼひゅん、と。


たちまちその吟彩の体を白煙が包み、辺りに散っていた枯葉が舞った。


そして煙が晴れるとーーーなんと、そこにいたのは吟彩ではなく、

艶めく毛並みの、小ぶりな狐であった。


《くしっ!へっ、くしっ!》


「おい葛の葉(くずのは)よ、大丈夫か」


葛の葉なる子狐は、秋になるとよくくさめをする。

しかし、今日に限っては一段と酷かった。


ので、さすがの吟彩も一声かける。



「はっ、はひっ……」

「くしゃみに効く薬でもあれば良いのだがなあ。

お前のその病ばかりは、あちきでもどうにもできぬ」




< 45 / 46 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop