放課後ワルツ
放課後ワルツ
01
遠くで、蝉の鳴き声が聞こえた。
か細いそれは、きっと最期の足掻きなのだろう。
この夏を生き抜いたという、確かな証を残して逝くために。
どうにかして
なんとかして
この響きが、どこかでまだ生きている仲間に届くように。
土の中で数年間温め続けた命の灯を、地上で生きることが許される最後の7日間で赤々と燃やし切り、穏やかに尽きる。
そして、次の世代へと命を引き継いでいくのだ。
……なんだか詩的。
格好いいじゃん。
蝉のくせに、さ。
「……ねぇ」
「んー」
「ねぇ」
「んー」
「ねぇって、ば!」
私は、手に握った消しゴムを窓際で黄昏れている男に思い切り投げつけた。
一直線にぶっ飛んでいった消しゴムは、見事に彼の腕に命中。
男は不愉快そうにこちらを見遣る。
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