放課後ワルツ
……、早く。
時計を確認すると、早瀬が出て行ってからまだ10分も経っていなかった。
1分が途轍もなく長く感じる。
………早瀬、早く。
頭の中でそう繰り返しながら、一心不乱に問題を解く。段々とペンを握る掌が汗ばんできた。
……早く帰って来て。
もう何かに縋り付きたい思いだった。書いては消して、書いては消して、少しでも頭と手を動かして……
「っひゃ!」
突然首筋に冷たさを感じて、ビクリと身体が跳ねた。
何事かと思って後ろを振り返ると、
「すげー集中してんね。戻って来たの気付かなかった?」
にやりと笑った早瀬が、私の頬にジュース缶を押し当ててくる。冷えた缶の表面が、熱を帯びた皮膚に心地好い。
「……早瀬」
「ジュース買って来た。これ、お前の分な」
早瀬はミックスジュースの缶を振って見せ、私の机の上に置いた。