シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
それから、必然である氷皇が見せた、あの膨大のデータ。
時折ちらちらと見えた数字が日付なのだとしたら、それは過去のものではなく、ここ数日間のものだった。
ティアラ計画は、どの時点で必要となるものなんだ?
久涅が無効の力を持ち、五皇となっているのなら。
玲が今、実験される意味は何処にある?
「その…ティアラ計画とやらが必要とされる時間軸は何処にある?
なぜそれが今も必要となる? 久涅は…元気じゃないか」
一瞬――
男の顔に驚愕の色が走った。
俺の…どの言葉に反応したのか。
玲が実験されていることか?
久涅が元気なことか?
不可解すぎるその色は瞬く間に消え失せ、代わってみせるは…狂気じみた憎々しげな顔。
それは俺を通り越して、親父を見ている気がした。
「なあ…。口を挟んで悪いけどよ、ひとついいか」
オレンジ色が間に割り込んだ。
「玲の親父が、櫂の母親に惚れ込んでいたことは判った。で、櫂の父親が極悪だったのも判った。で、お前が久涅を助ける為に暴走始めたのも判った。で玲を巻き込んでいることも判ったけど、その前に。
なあ…。櫂が芹霞の家の隣にきた時。紫堂本家から櫂の母親、逃げてきたんだろう? どうしてその時、掻っ攫わなかったんだ?」
問題は…少し前に遡ることになる。
「チャンスだろうがよ。櫂の母親と幸せに暮らせばよくね? 二人で久涅を育てればいいだろ?」
確かに、そうだ。
俺が紫堂の家から出てからは、人が尋ねてきたことはない。
あえて、いるとすれば――。
「匡が監視していた。追い出したくせに、ずっと」
母親の心臓病を往診に来ていた、女。
口許にホクロがあった。
確か名前は、
――ありがとう、ミサキさん。
そう、母親は名前を呼んで薬を受け取っていた気がする。
芹霞も俺もよくアメ玉を貰っていた気がする。
「違うだろうがよ。監視されていたって、心底惚れた女ならどんなことをしても奪いに行くのが男だろうが。まして、追い出されたとならば、迎えに行くのが男ってもんじゃねえの!!?」
荒くなる、煌の口調。
「黙ったまま、女々しく人のせいにすんのは…お前がその気がねえからじゃないか!!」
「違う!!!」
「どこが違うよ!! 第三者から言わせて貰えば、何かにつけて久涅久涅久涅!! それで心の奥で櫂の母親と愛し合っていた…なんてよく言えるよ。お前が愛してたのは久涅だけじゃねえか」
「お前に何が…「だから言ってるだろ、第三者だって」
男は白い顔を真っ赤にさせて怒っている。
「くくく。ワンワンはん…いいとこつきなはる」
ぼそりと、それまで黙っていた情報屋の声が漏れ聞こえた。
完全にその存在を忘れていたが。