シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
移動途中、芹霞さんから…、昔芹霞さんが作ったというオッドアイの人形が、見知った人間に化けていることを聞いた。
約束の地(カナン)でもそんなことがあった。
それは多分に、陰陽道でいう式神。
それを放っている術者が存在する。
それこそが私達を攪乱させて追い詰める側にいる者であるのだろう。
それが誰かが判れば、私達の真の敵もはっきりする気がする。
式神を扱えるのは、陰陽道を生業としている皇城家の者か、五皇も確か可能だったはずで。
だとすれば周涅や雄黄、或いは黒皇たる久涅などが疑わしいが、どうも感じるところは、式神の作りが稚拙すぎること。
見知った者に化けられるというだけで、よく見れば違和感がある箇所が必ずある。
力ある者達ならば、そんな不完全な式神を作らないと思うのだ。
だとすれば、術に長けていない側の人間が作っているのかもしれない。
そもそも(皇城翠はおいておいて)、私達に向けられた最初の式神は、"エディター"そっくりのもので、蛆となってまで私達を襲ったものだった。
その作りは精巧だったと思う。
それが今や…いや、厳密に言えば約束の地(カナン)から、どこか不出来な式神…元はオッドアイ人形が向けられている。
視覚だけではなく今度は聴覚を使い、見知った者達を真似てはいるけれど…何処か作りが甘い。
それならば、皇城翠が出した式神の方が、余程術としてのリアルな迫力があった。
…役立つか、式神の造詣にセンスがあるかは、別問題として。
そして、式神は通常用いられる符呪を基盤とせず、オッドアイ人形を基盤としているのも異質で。
陰陽道では、紙の人型を使って式神を作ることもあると聞いたこともあるが、それが何故…芹霞さんが作ったという"イチル人形"に限定されているのか。
何処で、芹霞さんが作った人形を知ったのか。
――あの人形ね、イチルに上げたあたしの手作り人形でさ。
芹霞さんが語る夢の内容は不明瞭で、イチルの他に誰か大切な男の子が一緒にいたかもしれないと言っていたが、それは櫂様ではないかと思う。
だとすれば、櫂様が紫堂本家に戻る前のこと。
そんな昔の、限られた者だけにしか判らない人形が、何故使用されているのか。
作った本人ですら、それまで忘れていたらしいのに。
そう考えれば、蛆の"エディター"を放った術者とは別人で、なにかメッセージ性を持っているような気がするんだ。
その人形に意味をもたせることが出来るのは、実際それに関わったことがある芹霞さんと櫂様。
ふたりに何かを言いたいのかもしれない。
ならば、過去に繋がる者が…術者となる。
先程電話した玲様ももしや…とも思ったが、SOSボタンを押した時計からも玲様の声は流れていたし、クオンを始めとして異を唱える者はいなかった。
満場一致で、あれは間違いなく玲様だと確信している。