シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
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「東京ドーム、東京ドーム…着いた!!」


白い屋根が見えて一番に歓喜の声を上げたのが、後ろに座る芹霞さん。


――裏道、近道…庶民の直感を侮ることなかれ!! よし、こっちの道!!


自警団は私が都度撃退していたし、それ以外の追尾の手はもうなかったのは幸いだったが、狙ったように険しい…坂道ばかりを選んで走行してしまう芹霞さんの足の筋肉は限界が来てしまったようで、途中から私が運転を交代した。

足で回すことに、不自然な抵抗を見せるペダル。

見れば…セキュリティロックみたいなものがかかり、動きを止められていたようだ。

それを外せばなんていうこともなく、自動的に動く…快適自転車で。


……そのことは芹霞さんには黙っていることにして、私は普通の自転車のように漕ぐことにした。


「ボロい自転車漕ぐのに、疲れたでしょう、桜ちゃんお疲れ様~」


よくもまあ"動かない"はずの自転車で、あれだけの猛速度が出せたものだと感心しながら、私の腹の前で組まれた芹霞さんの手と、背中越しに感じる…彼女の熱さと吐息に、私はどうしていいか判らず、ただひたすら黙々と自転車をこぎ続けた。


こんなに近い距離に居て。

こんなに体は疼いているのに。


正面で向き合う度胸もないことを再認識させられて、これで本当に強くなれるのかと、自嘲的な笑いが込み上げてくる。

このままの距離でも触れていられるのなら、それでもいいと思ってしまう私は、この…"恋"という不可解な熱にやられてしまっているのだろうか。


まるで照りつく太陽にやられたような…熱中症のような気分。


揺れる、揺れる…私の心。


手を伸したくて、たまらない…私の心。

しかし手を伸すのが怖い…私の心。


向きあって触れれば何かが始まりそうに思いながらも、実際に始まってしまうことを恐れている、臆病な私。


それが――

感情とは無縁な『漆黒の鬼雷』の異名を持つ、今の私。


ドームが見えた途端、芹霞さんの手は離れて降りてしまった。

それを名残惜しく感じながら、私も自転車から降り手押しする。

玲様の言われた道順を辿り、そして行き着いたのは…赤銅色の筒状の建物。

先程、残してきたばかりの男の持つ色で。


「"玄武参上"バイクもあるし、ここで間違いないよね。これ周涅の趣味? この塾の理事長だから…自分の色にしたの? 趣味ワル」


皇城家の№2が、塾の理事長をしているらしい。

しかも黄幡会系列らしい塾に。


――あはははは~。


同じ顔だからなのか、どうしてもそこに"必然性"があるように思えてやまない。

"こちら側"と形容した周涅を思い出す。

読み違いだったことに気づいた彼にとっての、選択しなかった別の選択肢は、何処の場所に繋がっていたのだろうか。

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