シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
指を広げたような手形が6つもついた、汚い自動ドア。
清掃は入らないのだろうか。
そんなことを思いながら自動ドアの前に立ってもドアは開くことなく、訝しげな顔を見合わせた時、突如ドアに大きな2つの手が現われドアが開かれた。
そして現われたのは――
「よかった、無事で!!」
満面笑みで両手を広げる、三つ編み姿の玲様。
………。
…天晴です、ミス桜華…。
そして私は、8つの手形になったドアを両手で閉め、総計10個になった手形のドアを背にして、中に入った。
「何この、強烈な匂い!!」
芹霞さんを抱きしめていた玲様が、突如顔を上げた。
「え、あたし臭い!? 汗臭い!!?」
「違うよ神崎、この匂いは!!」
遠坂由香も呼応する。
匂い…?
「「何であのクサの幻臭が!!?」」
クサ…。
私はポケットに入れたものを思い出して、玲様達に見せる。
「何で、あのクサがここにあるんだよ!!?」
鼻に手を押さえながら、玲様が悲痛な声を上げた。
「玲くん、あのクサってどのクサ?」
「神崎。これは"腐腐腐草"っていうもので…「由香ちゃん。また変なこと芹霞に教えないの」
「むふ?」
………。
"フフフソウ"という名の植物なのだと、私は思ってしまったのに。
「玲様、これは何のクサですか?」
すると玲様は青ざめた顔をして、怯えた目をする。
「筆舌尽くしがたい、忌まわしすぎるクサ。殺傷能力がある」
「毒草ですか!!?」
「葉山。これは久遠の…ニャンコお前じゃないの、人の久遠が何処からか持ってきて術を施したみたいで、紫堂も師匠も揃って涙目でじたばたしながら食べたという曰く付きの、回復アイテムさ。紫堂なんて、久遠に…だからお前じゃないって、直接生をわさわさ口に詰め込まれて、もうご愁傷様って感じで」
「わさわさ…。うわ…しかも生で食べたのかよ、櫂…」
玲様の端麗な顔の白さが際立った。
何となく…思い出す。
前回の"約束の地(カナン)"にて、怪我を負った久遠にラテン語の書類を読ませろと、脅す道具に指定されたのもそんなもので、久遠も極端に嫌がっていなかっただろうか。
それと同じなのか?
「生でも調理しても駄目なものは駄目だという、本当にどうしようもない、鬼畜ドS御用達のようなこのクサ、"約束の地(カナン)"にだけに生えるものかと思ったのに。外でもあるんだ。何処で手に入れたんだい?」
私は素直に事実を述べた。
「陽斗の墓場で、犬の死骸付近に開いた穴からです」
「うえっ。なんという処から持ち帰ったんだい、葉山!!」
「え、ということは、久遠も…お前じゃないの、そんな処からとってきたの? っていうか、犬の死骸はおろか墓場なんてあったっけ、"約束の地(カナン)"」
「うう…っ。僕、何のクサを食べさせられたんだよ…」
玲様の顔が白さを通り越して、透き通ってしまった。
ミス桜華は、見るからに痛々しい。
それでもまるで一枚の絵のような、胸をうつような美しい儚さを見せるのは、芸術的だとも思えてしまう。
「…師匠にも…旭が"しちゅ~"に混ぜ込んでいた具材を言うのはやめとこ…。それこそ墓場に持って行こう」
そんな遠坂由香の呟きも耳に届かなかった。