シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「玲くん…大好きな大根だったらよかったね」
「……。そうだね、大好きな大根だったら良かったね」
涙まじりにも思える声音で復唱した玲様は、芹霞さんを胸に抱いて、芹霞さんの頭に少しだけ頬を擦り寄せる。
垣間見る玲様の表情は、まるで大根を手にした時のように、愛しさに蕩けそうで。
「あたし、大根の話を…」
「うん。大根大好きだよ…。とっても好き。食べたいな…大根…。大事に大事に優しく愛でて食べるから…あとで食べていい?」
「ふへ!?」
「師匠、師匠。現実逃避は判るけど、そこで色気出したら、ただの変な人だぞ? あ、神崎が師匠の流し目にやられた!! …おい、しっかりしろ!!」
クサの記憶が蘇り、混乱しているのだろうか。
それともクサの匂いが、幻覚でも?
芹霞さん=大根になっているような気がする。
クサの威力…恐るべし!!
「おや…葉山。君の足元にあるのは、君のものかい?」
突然遠坂由香に指摘され、下を見てみれば…何かの紙の切れ端。
斜めに破かれている。
「クサを取出した時に…ポケットから落ちた? 記憶ありませんが」
黄ばんだ紙の切れ端を、ひっくり返したら…写真だった。
「あ、これ!!」
反応したのは、立ち直ったばかりの芹霞さんだった。
写真には赤いワンピースを着た、笑顔満面の女の子。
両手で見せつけるようにしている長細い紙には『大吉』と見える。
背景は…神社。『高円寺』の石碑が見える。
「これあたしじゃん!! お正月のものだよ。何で桜ちゃんが?」
「さあ…」
首を傾げる私に、玲様が言った。
「そう言えば、芹霞の家に入った紫茉ちゃんが…言ってたよね。芹霞の部屋から、アルバム…なくなっているって。それで残された写真に、緋狭さんが幽霊みたいに写っていたんだよね」
「あそこまでは本物の七瀬との会話だったんだな。しかし神崎の部屋からピンポイントでアルバム盗むなんて、犯人はまるで神崎の部屋に入ったことがあるような感じだね」
「高円寺で思い出したけど、あたしが一番可愛いと自信あった七五三の写真を、犯人は残していったんだよね。不細工顔もあるアルバムの方がいいって、どういうこと!!?」
「「「で、どこから写真を手に入れたの?」」」
揃って私を見つめられるが、まるで全然覚えなく。
少し仰け反りながら、引きつった顔を片側に深く傾ければ。
「桜。多分お前だろう、芹霞の部屋からアルバムを持ち出したのは」
玲様が、腕組みをしながら言った。