シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「お前は、アルバムを持ち出すように暗示をかけられていたんだ。
その中のどんな写真が必要なのか、多分お前には判っていたんだ」
私は目を細める。
「お前のことだ。ただ闇雲に暗示に流されていたわけじゃない。何らかの方法で、証拠を残していたと思う。それが…わざとらしく放置された写真であり、ポケットに入れた…お前が破いた写真だ」
暗示に流され、玲様に手を上げた私なのに、それでも私を信じようとしてくれている玲様の心に、じんときてしまった。
信頼。
それを直に感じれば、何とありがたく光栄なものなのか。
私の存在意義を、認めて貰っているような気がする。
思わず震える唇を、必死で噛みしめた。
「なんでまた"前歯歯っ欠け"のこの写真を…。あの七五三の方が、おしゃれしてるし絶対可愛いのに」
芹霞さんは余程その写真がお気に入りだったらしい。
じとりとした目を向けられたけれど、私だって理由は判らない。
「あれ、師匠。神崎の隣にいる、破れて顔半分になった…泣いている子…」
芹霞さんに比べれば撮影の比重は小さくて、ブレている上に右側が斜めに半分破れているため、背景の一部としてしか見ていなかったけれど。
よく見てみれば――
大泣きの男の子の手には、『凶』と書かれたおみくじ。
ポーズ的に、あかの他人が紛れたわけではなさそうだ。
漆黒の髪。それから彷彿するなれば――
「うん…」
玲様は儚げに微笑んで、ひとつ深呼吸をしながら、その写真を芹霞さんの手に握らせ、彼女にじっくりと見ることを促した。
「芹霞。君の横に映っているのが…櫂だよ?」
それは優しい口調と笑顔でありながら、泣いているようにも思えた。
「君と櫂は…ずっと一緒だったんだよ?」
無くなった櫂様の記憶。
それを思い出させようとする玲様の心は、今どんな状態なのか。
思い出して欲しい、だけど思い出さないで欲しい。
この心を抉られるような複雑な思いは、玲様の心に共鳴…しているのか。
思い出す。
櫂様の隣にいた、かつての…日常的な芹霞さんの笑顔。
――紫堂櫂を愛してる!!
ずきっと痛むのは…肉体か、心か。
「ん…」
芹霞さんの返事はそれだけで。
肯定も否定もなく。
「何となく…そういう気もするから、そうなんだろうね。今度紫堂くんに謝らないとね。小さい時の知り合いだったんだから」
幼なじみとは言わない芹霞さん。
煌に公言する関係以下だとでも言うように。
どこまでも複雑そうに笑う。
それを見る玲様は、痛ましい顔のまま微笑んで、
「そうか。だけど…一歩前進かな」
芹霞さんの頭を一撫でした。