シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「それより、これ写したの多分お父さんだよね。写すと必ずブレるし、ほら、ここにばっちり反対の手が。いつもそうなの…」
けらけらと笑う芹霞さん。
写真から父親の記憶を蘇生出来るのに、櫂様の記憶は戻らない。
あるのは…ただの事実の認識。
思い出は戻らない。
時間は――戻らない。
ああ、なんて残酷な現実。
「なあ神崎、これお父さんが撮っているとしたら。神崎の真後ろにいる優しそうなのはお母さんだろう? だったらさ、その隣の…紫堂の真上に居るけど、破られて顔が判らないのは誰だい? 紫堂のお母さんかい?」
玲様は首を横に振る。
「櫂は母親との写真は一枚もないと言っていた。だから違うと思う。だとすれば多分…」
「お姉ちゃんかなあ」
芹霞さんが言った。
玲様が苦悶の表情でなにか考え込んでいて、私は思わず声をかけた。
「結局、お前が訴えようとアルバムから抜き出した写真、なにを基準に選別していたのかなってさ。もしお前が取り残した芹霞の七五三の写真や、この写真に特殊な共通項があるのなら。
芹霞がどうこうのではなく、緋狭さんかなってさ」
「姉御かい? 確かに…この破られたところに姉御が居たのなら、その部分は破ればこれは必要ないし。部屋に残された神崎の七五三だって、七瀬は心霊写真と言ってたから、後ろに写った姉御はボケボケだったかもしれないし」
「間違いなくボケボケだと思うよ、お父さんの撮り方そうだもの。良く言えば、メインのみきっちり撮り。悪く言えばそれ以外ピントがあってない。だから玲くんが撮影班になってくれた時は、細部まできっちり取れてるその出来に感動して、言葉が出てこなかったもの。そんなすごいカメラマンが撮ってくれるというのに、緋狭姉は学校行事でも、撮影時に突然一升瓶と"ちーたら"買いにふらりといなくなるわ、酔っ払って絡んだ姿を写真に残そうとするわ。
結局空気を読めず、協調性のなさすぎる破天荒な緋狭姉は、写真に写ったためしはないよね!!?」
「……。まあ…記録に残さないという思惑もあったんだろうけど…。あるいは…僕達だけの思い出をと遠慮したか…」
玲様の苦笑まじりの声は、芹霞さんに届いていないようだ。
私は想像する。
五皇は、自らの痕跡を残さない。
例外は、本名を開示している緋狭様と氷皇。
うち緋狭様は住まう家も隠してはいないが、過去については…どうだろう。
私達は芹霞さんの姉としてずっと接していたから、緋狭様がどんな人物か判っているために、特別詮索したりはしなかったけれど、第三者に対し、名前と住所以上のなにかを開示していたのだろうか。
もしあるとすれば、妹の持つアルバムに。
そこに緋狭様のどんな姿があり、なぜ今更それが必要なのかは判らないけれど。