シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「そういえば紫堂の親父さんが持つ写真も…姉御だったよな」
遠坂由香が銀の袋から取出したのは、古ぼけた写真。
聞けば当主の部屋からくすねてきたものらしい。
「はッ、そうだッッ!!
――団長サマ!! お見逃し下さいマセ!!」
突如何かを思いだしたかのように、その場で土下座を始めた遠坂由香。
埃が付いた床の上だから、手足と額が真っ黒になってしまっている。
「この"窃盗"は、非常事態だったということで!! 任務だからと、ボクの首をとらないでおくんなまし!! ひぃぃぃっ」
ああ…当主からくすねたことについての制裁を恐れているのか。
確かに、紫堂の規律から言えば、情状酌量の余地ない重罪。
私の立場からしてみれば、遠坂由香の行為は決して許してはならない。
玲様はくすりと笑って、私の出方を見ている。
だから私は――
「桜は、意味がよく判りません」
そう肩を竦めると、遠坂由香は緩んだ顔をした。
「マヂデスカ!!!? うわーッ、葉山大好き!! 御礼にボクの熱烈ちゅうを…」
「いりません」
「そんな照れずに…」
「照れてません。結構です」
「ふふふ。桜は桜のままに見えて…少しだけ、丸くなったね…」
玲様から、嬉しそうな声が聞こえてきたような気がした。
その時、考え込んでいたらしい…芹霞さんの声がした。
「あのね、桜ちゃんの残した写真、あたしが大体同じ年の頃なんだよね。そこに意味があるのなら、その時期に限定した緋狭姉の写真を手に入れたい奴がいるのかなと思ったけれど、欲しいのはそんな漠然としたものではなくて、この写真と同じものがないのか、だったらどうだろう? この写真の緋狭姉の格好はあたし記憶がないから、あたしがもっと小さい時だとは思うけど」
「え?」
玲様が訝しげに目を細めた。
「ただなんとなく。この緋狭姉の写真…妹からしても特殊で異質な気がする。こんな緋狭姉初めてみたし。無論、写真でも見たことない。アルバムにはあたしの小さな時からの写真はあるけれど、それは皆あたし中心のもので、家族がメインのものは何もないんだよね。両親が死んだ時、緋狭姉写真燃やしちゃったから。だから緋狭姉だけの写真っていうのもアルバムにないの。桜ちゃん、それ知ってた?」
「いいえ…。本棚にアルバムがあるというのは、前に芹霞さんからお話を聞いただけで、中身を見たわけではないですし…」
「だよね。普通、アルバムには緋狭姉のものが入っててもおかしくないと思うし、桜ちゃん、アルバムの在処を知っているから利用された気がするなあ。
うーん。この写真、"どっきり"以外に意味があるようには思えないけど、持ち主には意味があるのかもしれないし…」
私達は、あどけなく笑う…少女時代の緋狭様の写真を見つめた。
赤いドレスを着た…清楚な美少女。
美しいという表現よりも可憐で、今の緋狭様の美貌とはまた色が違うし、まるで別人に思ってしまう。
もし私が芹霞さんのアルバムを盗み出し、その理由がこの写真と関係あったのだとしたら。
「裏にいたのは…当主…?」
だから副団長が動いたのか?