シンデレラに玻璃の星冠をⅢ



「可能性はあるね。だとすれば、副団長の裏切りは…当主黙認だ」


紫堂の警護団員が、副団長の針でやられていたのも…黙認だと?

そして黄幡会の"マスター"とも繋がっていると?


「紫堂としての組織体は揺らいでいる。当主は…一体何がしたいんだ?」


玲様から漏れた言葉に、答えるものはなかった。


「紫茉ちゃんが芹霞の家に行って写真を見つけたのが事実だとしたら、そこから地下室に行って桜の名を叫んだ時点で、消息不明だ。

まあ桜が芹霞の家に忍んでいたのなら、紫茉ちゃんを嵌める演技をしていた為に、彼女が驚いた声を出した…と考えても良いだろう。

朱貴がついているから、紫茉ちゃんに傷は負わせていないとは思う」


まるで記憶がないとはいえ、七瀬紫茉にどんなことをしてしまったのか。


「とりあえずは更正施設に行こう。そこに朱貴達がいるかもしれない」


更正施設には…朱貴が七瀬紫茉に飲ませていた『ジキヨクナール』の真実が隠されている。

同時に、自警団の持つ携帯もどきの機械へ流す、個人情報を管理している巨大なサーバーがあるらしい。

それを乗っ取り、玲様のメインコンピューターを連結させて動かす。

制御と罠回避には多大な電力が必要で、その確保に百合絵さんは動いているらしい。


「じゃあ、行こうか」


私達は頷いた。


移動手段はバイクと自転車の2つ。

必然とふたり2組(+1匹)に別れることになる。

自転車のカゴには、名目上…見張りということで、化けネコが埋もれた。

今までうとうとしていたくせに、カゴに入れば定位置だといわんばかりのどや顔。

目覚めすっきりの澄んだ瑠璃色の瞳をして、堂々と気合いはいった鳴き声まで響かせ、まるで私達を従えた気でいる…化けネコの王様だ。


自転車を早く漕いで移動しろとでも言ってるようだが、ネコとしてそれでいいのか。

それとも化けネコには、羞恥も矜持もないのか。

…ないだろうな、所詮ネコだし。


「バイクは、安全第一のヘルメット付きだからね、むふふふふ」


運転免許がある玲様はバイクは決定だろう。

勿論芹霞さんがその後ろに乗ると思っていたのだけれど。


「あたし、自転車で行く。由香ちゃん、後ろにどうぞ?」

「「え!!?」」


玲様と遠坂由香は同時に声を放つ。


「だけど芹霞、敵が来たら困るから…」


玲様は芹霞さんを後ろに乗せたいらしい。

玲様はロマンチストの面があるから、学生カップルらしい気分を味わいたいのだろう。

私は先に味わってしまって、何だか申し訳ない気分になってしまった。


「うん、横に揃っていけばいいでしょ? あたし足回復したし」


しかし芹霞さんは、玲様のような甘い幻想は抱いていないようだ。


「自転車がいいなら僕が…」

「免許持っているの、玲くんだけなんでしょ? 桜ちゃん頑張ったから、後ろで楽させて上げて?」

「え、でも…」

「それとも由香ちゃんの方がいいかな。やっぱり師弟コンビがいい? あたしはまた桜ちゃんでもいいし、ね、あたし達結構いいコンビだったよね?」


玲様から、無言の圧を感じる。
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