シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「私は別に…「そう? じゃ由香ちゃんはどっちがいい? 由香ちゃん決めてよ。決定権があるのは由香ちゃんです。は~い、パチパチパチ…」
「ボクに振るのかい!!?」
渋る玲様と、きっと悪意はないだろう…朗らかな芹霞さん。
挟まれた遠坂由香は逃げ腰だ。
ここは彼女に任せよう。
何だか玲様が怖いから。
そんな時、背後から音がした。
コンコン、コンコンッッ!!
いつの間にやら、制服を着た…ショートカットの長身の少女が玄関に立ち、開かずの…14個の手形がついた自動ドアをノックしている。
「あれ、何で開かないんだろ、あれ~!!? 理事長が案内してくれるっていう時間に向こうの塾に行けなくて、慌てて来たのに…何このオチ!!? この後予定があるのに!!! 確か手続き今日中だよね!!?」
どう見ても、ドアが開かないことに、純粋に狼狽している。
"理事長"
訝しげな顔をしながら、玲様が声をかけた。
「特待生の方?」
「はいはい、そうなんです!! 貴方の制服…桜華…貴方も特待生!!?」
玲様は頷いた。
「きゃ~よかった!! ねえ、どうしてここ開かないの? 貴方は手続きすんだの!!?」
「手続きの事務員が今はいないんです。だから後にしようかなって」
にっこり。
事実を伏せて玲様が笑う。
「え~!!? 困ったな~、待っている暇ないし…ああ、もうこんな時間!! 私もまた後で来る!! そうだ、私は大野香織って言うの。ええと…?」
「私は紫堂玲」
「玲ちゃん!!? また会えるといい…」
そして、私と目が合うと、言葉を不自然に途切れさせた。
何だ?
「うっわ~。タイプ、モロタイプ!!! 玲ちゃんのお友達!!? それとも別の特待生!!? 君、君の名……ああ、駄目、間に合わなくなる!! 大野香織だからね、覚えていてね!!」
そう言うと、ブレーザーの片側を開けて、そこに書かれた大きな名前の刺繍を見せた。
「絶対見つけちゃうからね、私勘だけはすっごくいいんだから!! 今度会ったら、君をズッギュ~ン、狙い撃ち!! 覚えててね、大野香織!! じゃあね、大野香織だよ~!! 大野香織をよろしく~!!」
そしていなくなる。
「なんだったんだ、あれ…。選挙の応援みたい」
「多分…葉山に一目惚れじゃないか? あれがイマドキの肉食系…って奴さ。妙に痛々しいけど…」
「まるで突風だね…。僕、折角話を聞こうと思ったのに」
呆然。
唖然。
心ならずも覚えてしまった。
大野香織という名前。
顔は覚えていないのに。
世の中には色々な女性がいるものだ。
そこまで時間に余裕がないのなら、仮にここが"営業"していても、手続きする時間もなかったようにも思えるけれど…まあ、どうでもいいこと。
「むふふふふ。葉山、モテるね~」
本当にどうでもいいこと。